無能の人・日の戯れ(新潮文庫) Kindle版
どうも、なぐです。今回は『つげ義春』です。遠い昔10代最後の頃…私はデザイン学校のグラフィックデザイン科に通っている学生でした。それと同時に雑誌などでちょろちょろっと漫画やイラストの仕事もしたりしておりました…その当時に衝撃的な出会いをしたのが『ねじ式』や『紅い花』などのつげ義春作品でした。つげ義春作品にリアルタイムに衝撃を受けた世代とは10年以上も離れているので、遅れてきたフォロワーで、『ねじ式』の存在を知り、興味をひかれ神田の書店街を歩き回って再販されていた文庫サイズのつげ義晴作品を手に入れ、読み漁ってすっかりそのシュールで陰鬱とした独自な世界観に衝撃を受け、一時期つげ作品にどっぷりとはまっていました。自分でもつげ作品の影響がバレバレの漫画を描いたりしておりました。(笑)
さて時は数十年経ちまして、ネットでつげ義春展の情報等を知り…懐かしさも込み上げて来て「ああ、もう一度つげ作品を読んでみたい…」衝動にかられてしまいました。今でもつげ作品はamazon等でも簡単に手に入れられるのですが…昔の作品をもう一度紙媒体で読むのもどうかなぁぁ…という気持ちもあり、歳をとってだいぶ老眼が入ってきた事もあり…今回はKindle版の『無能の人・日の戯れ』を購入してタブレットで読むことにしました。
『石を売る』
助川は、中古カメラ業、古物商などの商売がことごとく失敗し、今は多摩川の川原で、拾った石を掘っ立て小屋に並べ、石を売る商売を始めた。美術品として愛好家に取引される石とは全く違う「川原の石」が売れるはずもなく、妻に愛想を尽かされ、罵倒されながらも諦めきれずに、今日も石を並べて思索にふける。助川には夢があった。10年ほど前まで鉄橋の下にあった渡し場を復活させることである。ついでに河原に店を出しジュースや甘酒、さらには好きな石を並べ多角経営しようと夢を語る助川に、妻は川渡し人足の方が似合いじゃないかと罵倒する。ある日、川渡しに使われている貸しボート屋のボートが転覆したのを見て、思い切って川渡し人足を一人100円で始めてみる。日が暮れ、一日の稼ぎを数えていると長男が河原に迎えに来る。長男は河原にそのままになっている石が盗られないか心配する。助川は、妻が「父ちゃんは虫けらだ」と言っていたことを長男から聞かされる。
なぜ彼は河原に転がっている売れるはずもない「石」を売るのか…
河原にいくらでもころがっている石ころを2年もかけて自分なりに探し選別し名前をつけて河原の掘っ建て小屋で売り続ける主人公…。
現代社会に対するアイロニーなのか…ゼロがイチにもマイナスイチにもならない淀んだ水の底に沈んだまま…自分を「父ちゃんは虫けらだ」と言いながらうずく待っている…当時のつげ義春の生活とリンクする様なストーリー展開。
登場人物は皆んないろんな問題を抱えにっちもさっちもいかない人生の中で無気力に流され続けて行く者達ばかり…日常と非日常の隙間で展開される夢とも現実もつかない世界。妙にリアルでもあり、愚にもつかない非現実でもある。そうだ、この物語はどうしようもない事を受け入れどうしようもなく生き続ける人々の物語(ストーリー)なのだ…。
つげ義春という異端の才人の作品をもう一度深く読み返してみるのもいいだろう…
2020.02.05 なぐ