1897年(明治30年)のこの日、イギリスの細菌学者ロナルド・ロス(1857~1932年)が、羽斑蚊(ハマダラカ)類の蚊の胃の中からマラリアの原虫を発見した。
ロスは翌年の1898年(明治31年)に鳥を使った吸血感染実験により、ハマダラカがマラリアを媒介することを明らかにした。ロスはこの功績で1902年(明治35年)に第2回ノーベル生理学・医学賞を受賞した。「マラリア」という単語は「悪い空気」という意味の古いイタリア語「mal aria」に由来している。
マラリア
マラリア(麻剌利亜、「悪い空気」という意味の古いイタリア語: mala aria 、ドイツ語: Malaria、英語: malaria)は、熱帯から亜熱帯に広く分布する原虫感染症。高熱や頭痛、吐き気などの症状を呈する。悪性の場合は脳マラリアによる意識障害や腎不全などを起こし死亡する。日本の古典などで出てくる瘧(おこり)とは、大抵このマラリアを指していた。マラリアは予防可能、治療可能な病気である。全世界ではマラリアに年間2.16億人が感染し、うち44.5万人が死亡している(2016年)。
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マラリアを発症すると、40度近くの激しい高熱に襲われるが、比較的短時間で熱は下がる。しかし、三日熱マラリアの場合48時間おきに、四日熱マラリアの場合72時間おきに、繰り返し激しい高熱に襲われることになる(つまり発熱の二日後あるいは三日後に再発熱する格好となり、最初の発熱日を一日目として数えると、三日目、四日目に次の発熱が起きる。これが三日熱、四日熱と呼ばれる所以である)。卵形マラリアは三日熱マラリアとほぼ同じで50時間おきに発熱する。熱帯熱マラリアの場合には周期性は薄い。
熱帯熱マラリア以外で見られる周期性は原虫が赤血球内で発育する時間が関係しており、たとえば三日熱マラリアでは48時間ごとに原虫が血中に出るときに赤血球を破壊するため、それと同時に発熱が起こる。熱帯熱マラリアに周期性がないのは赤血球内での発育の同調性が良くないためである。いずれの場合も、一旦熱が下がることから油断しやすいが、すぐに治療を始めないとどんどん重篤な状態に陥ってしまう。一般的には、3度目の高熱を発症した時には大変危険な状態にあるといわれている。
放置した場合、熱帯熱マラリア以外は慢性化する。慢性化すると発熱の間隔が延び、血中の原虫は減少する。
三日熱マラリアと卵形マラリアは一部の原虫が肝細胞内で休眠型となり、長期間潜伏する事がある。この原虫は何らかの原因で分裂を再開し、再発の原因となる。四日熱マラリア原虫の成熟体は、血液中に数か月 – 数年間潜伏し発症させることがある。
マラリアの原因
病原体は単細胞生物であるマラリア原虫。ハマダラカによって媒介される。
マラリア原虫はアピコンプレクサ門 胞子虫綱 コクシジウム目に属する。微細構造および分子系統解析からアルベオラータという系統に属する。ここには他に渦鞭毛藻類が知られ、近年マラリア原虫からも葉緑体の痕跡が発見された。そのため、その全てが寄生生物であるアピコンプレクサ類も祖先は渦鞭毛藻類と同じ光合成生物であったと考えられている。ヒトの病原体となるものはながらく熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)、三日熱マラリア原虫(P. vivax)、四日熱マラリア原虫(P. malariae)、卵形マラリア原虫(P. ovale)の4種類であったが、近年サルマラリア原虫(P. knowlesi)が5種目として大きな注目を集めている。サルマラリアは顕微鏡検査では P. vivaxと区別が難しいため従来ほとんど報告例はなかったが、近年の検査技術の発達によりPCRで確実な判断ができるようになったため、多数症例が報告されるようになった。マレーシア・サラワク州では今日のマラリア症例の70%がサルマラリアによるものであることも報告されている。タイでも報告例がでてきた。熱帯熱マラリア原虫によるマラリアは症状が重いことで知られるが、サルマラリアは24時間以下の周期で急激に原虫が増加し、他のマラリアとことなりほぼすべての赤血球に侵入するため症状は重篤になることが多く、これらの発見から当該地域でのマラリアコントロールは新たな手法による対応を迫られている。
ワクチンは今だに開発中
マラリア原虫は遺伝子を変化させ薬剤耐性を獲得し免疫防御を巧妙に回避する方向に進化してきたため、実用的な抗マラリア・ワクチンは長年開発途上にあった。しかし、2013年グラクソ・スミスクライン社により抗マラリア・ワクチン(RTS,S)が販売される見通しとなった旨の報道がされた。このワクチンが実用化された場合、マラリア発症リスクが56%、重症化リスクが47%、それぞれ低減されるとしている。
ワクチン開発は、前述のグラクソ・スミスクライン社だけでなく日本の大阪大学微生物病研究所らのグループでも行われている。
疫学
マラリアの発生、流行は、現在、熱帯、亜熱帯地域の70か国以上に分布している。全世界で年間約2億2000万人の患者が発生し、死者数は年間約45万人に上ると報告されている。
もっとも影響が甚大な地域はサハラ砂漠以南のアフリカ諸国である。
過去には、日本やヨーロッパなどでもマラリアが流行したと考えられている。イタリアの都市の多くが、丘の上に作られているのは、低湿地がマラリアの多発地帯である事を恐れた結果であったとする指摘がある。実際、過去にはイタリアでもマラリアが存在し、19世紀の政治家・カミッロ・カヴールといった著名人も死去している。しかし、現代では、日本やヨーロッパなどの温帯地域はマラリアの流行地帯ではなく、流行は熱帯地域に多い。
年間40万人もの命を奪う病気――マラリア 【国境なき医師団】