1964年(昭和39年)の8月21日、それまでの売血制度をやめ、全ての輸血用血液を献血によって確保する体制を確立するよう、献血の推進が閣議で決定された。
売血制度があった当時、金銭を得るために過度の売血を繰り返す人たちの血液は血球が少なく血漿部分が目立つため
「黄色い血」
と呼ばれていた。この血液は、輸血しても効果がなく、また、輸血後に肝炎などの副作用を起こしがちだったため、大きな社会問題となっていた。1974年(昭和49年)に民間商業血液銀行が預血制度を廃止したことにより、全てを献血で確保する体制が確立した。
日本における献血
日本では日本赤十字社が全て手がけており、提供された血液は感染症の検査のあと、各医療機関などへ提供される。日本では輸血用血液はもっぱら献血によりまかなわれている。
2005年以前までは献血の根拠となっていたのは1964年の閣議決定だったが、2005年の法改正によって「採血及び供血あつせん業取締法」が名称を「安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律(血液法)」と変更したうえで大幅に改正され、献血事業の主導権は日本赤十字社から厚生労働省に移った。
種類と基準
大別して、血液の成分すべてを採取する「全血献血」と、特定の成分のみを採取する「成分献血」がある。また基準を満たし同意を得た人については600mLの成分献血をすることが可能である。
- 全血献血
- 200mL献血
- 400mL献血
- 成分献血
- 血小板献血
- 血漿献血
※全血献血は年間採血量に限度があり、男性では1,200mL・女性では800mL。
※成分献血は年間回数に限度があり、血小板は1回を2回に換算して合計24回(血小板だけなら年に12回)。
65歳から69歳の献血は、献血者の健康を考え、60歳から64歳の間に献血経験がある人に限られる。
400mL全血献血および成分献血が行われる以前は200mL全血献血だけであった。400mL献血はより多くの血液を1人の献血者から採血することによって、輸血時の発熱・発疹・感染等の副作用低減を期待できる。成分献血は回復に時間を要する赤血球を献血者に戻すため、全血献血に比べてより多くの血小板や血漿を採血できる。献血をする側の身体や臓器への負担は200mL献血もしくは成分献血が比較的軽いが、400mL献血であっても日常生活に支障はなく、健康体であれば身体的にも害はないということになっている。
成分献血はいったん全血を採取し、遠心分離機で得た必要な成分を回収したあと、遠心分離機内で抗凝固薬(クエン酸ナトリウム)を混ぜた残りの血液を体内に返血する手順を複数回(おもに3、4回。機械・体調などにより決定)繰り返す。そのため採血に時間がかかる(30 – 90分)。
上記の条件や採血設備、血液の需要、所要時間などが考慮されたうえでいずれかの献血への協力を要請されるが、その決定については献血者の意思が優先される。通常、成分献血が可能であれば成分献血を勧められ、不可能な場合も400mLが可能であれば400mLを勧められる。なお成分献血において血小板献血・血漿献血の別は献血者には知らされないこともある。また、学校や会社などによる献血の場合は、全血献血が行われることが多い。
血小板献血で採血に血漿を含まないときは、1週間後に血小板成分献血が可能になる。ただし4週間に4回実施した場合には次回までに4週間以上空けなくてはならない。なお、血小板は採血してから保存できる期間が非常に短い(採血後4日間、輸血の項を参照)ため、その日の血小板採血予定量を超えた場合、成分献血は血漿のみになることもある。
血小板成分献血は、通常1人から10単位血小板+血漿を採血するが、血小板数が多い献血者には「高単位血小板献血」を依頼される場合があり、20単位の血小板を採血することがある。この場合、まれにクエン酸反応(唇のしびれ・寒気など)が出現することがあるため、希望者には予防としてカルシウム入りの菓子や飲料が提供される。
2011年4月1日より、男性のみ400mL全血献血の対象年齢が18歳から17歳に引き下げられ、男女とも18歳から54歳に限定されている血小板成分献血については、男性のみ上限を69歳に引き上げた。
2018年4月1日から「安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律施行規則」が一部改正され、献血における1年間の算定方法が「365日」から「52週(364日)」に変更された。
献血できる場所
献血は各地にある血液センター(一部を除く)や献血ルームのほか、駅前や繁華街などに派遣されるバス型の移動採血車で行われる。移動採血車は単体でも活動するが、会場によっては、ほかの移動採血車やテントなどを運ぶ軽トラックやワゴン車などの資材車と2台またはそれ以上のキャラバンが編成される場合もある。
- 移動採血車は、街頭献血と呼ばれる駅前や繁華街などでの一般への協力の呼びかけや企業や学校などの集団献血などで利用される。おもに200mL、400mLの採血を行う。なお、医療機関からの需要により400mLの受付を中心としている。
- 過去には成分献血専用車両を整備するなど、移動採血車においての成分献血も行われていたが、現在はほとんど行われていない。
- 血液センターや献血ルームでは成分献血が広く行われている。
献血ができない例
献血する人への負担軽減の理由から
- 体調がよくない。
- 食事を2回抜いている(朝食・昼食を抜いて午後に献血など)。
- 一食だけ抜いている場合は用意されている菓子などを摂るように薦められる。
- 特定の病気の罹患または既往歴がある。
- 心臓病・腎臓病・多血症・極度の貧血・てんかん・けいれん・失神・脳血管障害・薬物療法を受けている糖尿病など。
- 睡眠不足(おおむね4時間以下。しかし生活習慣として恒常化している場合は自己申告ののちに医師の判断となる。基本的に睡眠時間が不足していれば受付で献血を断られるが、当日の採血計画を大きく下回るなどの状況によっては仮眠時間なども聞かれて医師の問診に通されることもある)。
- 体重40kg未満の女性、45kg未満の男性(200mL献血)。男女とも50kg未満(400mL献血)。
- 65歳以上の場合、健康面から60歳 – 64歳までの間に献血経験のある場合に限る。
- 妊娠・母乳授乳中。
- 出産・流産後6か月未満。
- 血色素量の数値が低い(Hb濃度が低い)。
- 心電図異常(特に成分献血の場合)。
輸血される側の安全の理由から
- 発熱時・体調が思わしくない場合。
- 特定の病気の罹患または既往歴がある。
- 悪性腫瘍(輸血未実施の状況に限る)・結核は、根治後5年を経過すれば献血ができる。
- 肝逸脱酵素(ALT、AST)高値の場合。
- 特定の感染症(感染症新法に定められたほとんどの感染症)の感染疑いがある場合。
献血カードと献血手帳
献血手帳
献血者コードならびに献血した日付・場所・採血種類を記した手帳。献血前に前回の採血日時を確認するために必要。発行は各地域(おもに都府県ごと)の赤十字血液センターだが、日本全国共通で利用できる。
10回分の記入欄があり、欄が埋まると新しいものが交付される。400mL献血および成分献血の導入当初は、400mL献血1回で2回分、成分献血1回で3回分として記入されていた(協力促進のため。すなわち、記録上の献血回数が実際の回数より多くなる)が、1995年4月1日以降はいずれも等しく1回として記入される。
献血手帳の取扱い等について(昭和44年11月厚生省薬務局細菌製剤課長通知)では献血手帳の歴史的経緯や、この通知発効後は献血手帳の有無に関わらず公平に輸血が受けられることなどが記されている。かつては献血経験者およびその家族は優先的に輸血を受けられる旨が定められていた。
従来、手帳には「既献血回数」とともに「供給本数」の欄もあった(これゆえ、別称血液通帳)が、上述の精神に則り「供給 – 」は1981年度で削除された。
献血カード「愛-Ca(アイカ)」の導入
2006年10月から、献血手帳に替わり磁気記録式の献血カードが導入された。札幌、山梨、岡山の各血液センターでは2006年8月に手帳を廃止し、献血カードを先行導入した。その他の血液センターは2006年10月に献血カードへ移行した。なお、献血カード導入以前の献血手帳の情報は献血カードへ移し変えることができる。
カードには4桁の暗証番号を設定し、本人確認を行うことになっていたが、2014年5月以降には、指静脈による生体認証が順次導入されている。
カード裏面には、上段から献血者コード番号、献血者氏名(姓・カタカナ表記)、献血者氏名(名・カタカナ表記)、献血回数、血液型(ABO式、Rh式)、直近3回分の献血履歴(日付、献血方法、採血センター名、本人確認区分)、献血方法別の次回献血可能日、表彰・顕彰の記録、最新献血センター名、最新献血センターの電話番号が表示されている。この表示は献血を行うごとに毎回書き換えられるようになっている。ほか、専用リーダーのみで読み出し可能な磁気情報で住所・漢字表記の氏名・生年月日が記録される。
なお、北海道ではこれ以前の1998年から献血カードが導入されていた。暗証番号は設定されてはいなかったものの、カード裏面にさまざまな情報が記録されることはまったく同じであった。当時はその他の地域では献血手帳が用いられていたため、その献血カードは北海道内でしか使用できないものであり、他都府県で献血カードを出した場合は献血手帳が発行されていた。
平成23年10月3日から複数回献血クラブ(ラブラッド)会員はオリジナル献血カードに変更が可能になった。
表彰
献血回数70回で銀色有功賞が、献血回数100回で金色有功賞が日本赤十字社から授与される。
世界記録
オーストラリアのジェームズ・ハリソンは、これまで1,173回献血を行い、ギネスから世界記録を認定された。
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