1969年(昭和44年)のこの日、監督・山田洋次、主演・渥美清の映画『男はつらいよ』シリーズの第1作が公開された。
『男はつらいよ』のテレビドラマおよび映画シリーズでは、テキ屋稼業を生業とする「フーテンの寅」こと車寅次郎が、何かの拍子に故郷の葛飾柴又に戻ってきては、何かと大騒動を起こす人情喜劇で、毎回旅先で出会った「マドンナ」に惚れつつも、失恋するか身を引くかして成就しない寅次郎の恋愛模様を、日本各地の美しい風景を背景に描いている。
「フーテンの寅」が最初に登場したのはテレビドラマで、この時は最終回で寅さんは死亡した。しかし、あまりの反響の大きさのため映画で復活し、以来26年48作にも及ぶ世界最長の長編シリーズとなった。最も長いシリーズの映画としてギネスブックにも載っている。映画シリーズ全48作の配給収入は464億3,000万円、観客動員数は7,957万3,000人を記録。ビデオソフトは1996年(平成8年)7月末までにセル用とレンタル用の合計で85万本が流通している。
『男はつらいよ』
『男はつらいよ』は最初、1960年代半ばから、鶴田浩二や高倉健、池部良らを主役脇役に据えて発展させた東映「ヤクザ映画」のパロディとして企画された。安藤昇が助監督時代の山田洋次に『男はつらいよ』の原案を伝えたという説がある。高倉は山田監督による『幸福の黄色いハンカチ』『遥かなる山の呼び声』に出演。この両作品で渥美清、倍賞千恵子とも共演している。
1968年(昭和43年) – 1969年(昭和44年)に、フジテレビが制作・放送したテレビドラマが最初で、柴又の帝釈天が舞台ではなかった。このテレビ版はヒットしたが、最終話でハブ酒を作ってひと儲けしようとした寅次郎が、奄美大島にハブを取りに行って逆にハブに咬まれ、毒が回り死んだという結末に視聴者から多数の抗議が殺到して、映画化につながった。
映画シリーズは、松竹によって1969年(昭和44年)8月27日に第1作が公開され、1995年(平成7年)までに渥美が参加した48作が、1997年(平成9年)と、2019年(令和元年)に特別編が公開された。
山田洋次が全作の原作・脚本を担当。第3作(監督:森崎東)、第4作(監督:小林俊一)を除く46作を監督した。第5作で山田が再び監督し、シリーズを完結させる予定であったが、あまりのヒットに続編の製作が決定した。
以降、全作品がヒットして松竹のドル箱シリーズとなり、30作を超えた時点で世界最長の映画シリーズ(作品数)としてギネスブック国際版にも認定された(年数では『007』シリーズの方が長い)。山田は全50作完結を構想し、第49作『寅次郎花へんろ』準備中に渥美の死去により、1995年(平成7年)に公開された第48作『男はつらいよ 寅次郎紅の花』をもって終了(打ち切り)になった。その後、ファンからのラブコールが多かったとのことで、『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花』を再編集し、新撮影分を加えた『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇』が1997年(平成9年)- 1998年(平成10年)に公開された。
渥美が収録に参加した映画シリーズ48作の配給収入は464億3000万円、観客動員数は7957万3000人を記録。ビデオソフトは1996年7月末までにセル用とレンタル用の合計で85万本が流通している。
1969年(昭和44年)の映画第1作公開から50周年に当たる2019年(令和元年)12月27日には、旧作の名場面に新撮部分を加えた第50作『男はつらいよ お帰り 寅さん』が公開。2018年(平成30年)9月6日に誕生50周年を迎える来夏頃に“50作目”となる新作映画を公開することが6日、都内で行われた『50周年プロジェクト』会見で発表された。“22年ぶり”となる新作には、シリーズ全49作を4Kデジタル修復した映像と、新たに撮影される映像が使用される。あわせて、2年をかけて4Kデジタル修復されたシリーズ全49作のBlu-ray Disc発売と全国劇場公開、東京都葛飾区柴又の寅さん記念館のリニューアルオープン、山田洋次監督の小説『悪童 小説 寅次郎の告白』の刊行、BSテレ東の企画『やっぱり土曜は寅さん!』による全49作のテレビ放送、などが行われた。
作品内容
主人公、「フーテンの寅」こと車寅次郎は、父親、車平造が芸者、菊との間に作った子供。実母の出奔後父親のもとに引き取られたが、14歳の時に父親と大ゲンカをして家を飛び出したという設定。第1作は、テキ屋稼業で日本全国を渡り歩く渡世人となった寅次郎が家出から20年後に突然、倍賞千恵子演じる異母妹さくらと叔父夫婦が住む、生まれ故郷の東京都葛飾区柴又・柴又帝釈天の門前にある個人企業の御食事処・草団子屋「本家とらや老舗(後に、本家くるま菓子舗に店名変更)」に戻ってくるところから始まる。
各作品のパターンは、ほぼ様式化されている。寅次郎が旅先で出会うマドンナに惚れてしまい、何かと世話を焼くうちに、マドンナも寅次郎に対して信頼を寄せ親しい仲になる。その後、舞台を柴又に移し、「とらや」を舞台に賑やかな人情喜劇が展開されるが、結局、恋愛に発展することなく、最後にはマドンナの恋人が現れて寅次郎は失恋する。傷心の寅次郎は書き入れ時である正月前、もしくは盆前に再びテキ屋稼業の旅に出る、といったものである。
マドンナが寅次郎に恋愛感情を持っていることが示唆されたり、愛の告白(らしきもの)をするケースも少なくないが、この場合は、寅次郎の方が逃げ腰になり、自ら身を引く形となっている。こんな寅次郎について甥の満男は、「手の届かない美しい人には夢中になるけれど、その人が伯父さんに好意を持つと逃げ出してしまう」と端的に語っている。
また、マドンナと「うまくいっている」と誤解している時点で、寅次郎が柴又に帰り、さくら達にマドンナとの楽しい体験を話す場面は、渥美清の語りが落語家のような名調子で、スタッフやキャスト達は「寅のアリア」と呼んでいた。
第42作〜48作のうち4作品では、寅次郎の相手となる通常のマドンナに加え、さくらの息子満男(吉岡秀隆)が思いを寄せる泉(後藤久美子)がマドンナとして登場するようになり、寅次郎が満男のコーチ役にまわる場面が多くなり、満男が事実上の主役になっている。渥美が病気になり快活な演技ができなくなったため、満男を主役にしたサブストーリーを作成、満男の恋の相手が必要になったため、当初は予定されていなかった泉が登場することとなる。山田監督の話によれば実現しなかった第49作で二人の結婚を描く予定だったが、その後の第50作ではそれぞれ別の人物と結婚している。
レギュラーとして登場する人物は、寅次郎、さくらのほか、さくらの夫・諏訪博、草団子店を経営する叔父・竜造と叔母・つね、博が勤務する中小企業の印刷会社「株式会社朝日印刷所」の社長で寅次郎の幼馴染・タコ社長こと桂梅太郎、帝釈天の御前さま、寺男で寅次郎の舎弟・源公などがいた。マドンナとして複数回登場した女優もいるが、リリー、歌子(吉永小百合)、泉以外は、別人の役で出演している。おいちゃんこと叔父・竜造役は初代が森川信、2代目は松村達雄、3代目は下條正巳が演じた。その他、毎回役柄は違うものの、サブキャラクターとしてレギュラー出演する俳優も多く存在した。
青年時代に、実際にテキ屋体験がある渥美ならではの見事な口上も、ファンの楽しみであった。また、このシリーズは原則としてお盆と正月の年2回公開されたが、お盆公開の映画の春から夏への旅は、南から北へ、正月公開の秋から冬への旅は、北から南へ旅することが多かった。画面に映し出される日本各地の懐かしい風景が、シリーズの魅力の一つでもある。
なお、第48作まで一貫してエンドロール表示は設定されず、出演キャストや制作スタッフ等の字幕表示はオープニングでされた。また日本映画の主流がビスタサイズ画面やドルビーステレオ音響に移り変わった後でもシネマスコープ、モノラル音声を使用し続けていた。
映画『男はつらいよ』(第1作)予告編映像/4Kデジタル修復版
男はつらいよ 第1作 名場面 さくらと博の結婚式