1959(昭和34)年6月10日、東京都台東区の上野公園内に国立西洋美術館が開館しました。
フランス人建築家で近代建築の巨匠と称されるル・コルビュジエ氏の建築作品で、2016(平成28)年には建物自体が世界文化遺産にも登録されております。
美術館内に常時展示されている作品の多くは、川崎重工業の前身にあたる川崎造船所の社長を務めた実業家・松方幸次郎氏の通称松方コレクションと呼ばれる美術品の数々が基になっており、
主に19世紀から20世紀前半の絵画や彫刻が中心に展示されております。
国立西洋美術館
国立西洋美術館は印象派など19世紀から20世紀前半の絵画・彫刻を中心とする松方コレクションを基として、1959年(昭和34年)に設立された。実業家松方幸次郎は20世紀初めにフランスで多くの美術品を収集したが、コレクションは第二次世界大戦後、フランス政府により敵国資産として差し押さえられていた。松方コレクションが日本に寄贈返還される際の条件として、国立西洋美術館が建設されることになった。
本館の設計はル・コルビュジエが担当し、彼の弟子である前川國男・坂倉準三・吉阪隆正が実施設計・監理に協力し完成した。なお新館は前川國男(前川國男建築設計事務所)が設計した。
本館は、1998年(平成10年)に旧建設省による公共建築百選に選定。2003年にはDOCOMOMO JAPAN選定 日本におけるモダン・ムーブメントの建築に選定され、2007年(平成19年)には「国立西洋美術館本館」として国の重要文化財に指定された。また、前庭・園地は、2009年(平成21年)に「国立西洋美術館園地」として国の登録記念物(名勝地関係)に登録されている。
開館後は松方コレクションに加えて中世末期・ルネサンス期より20世紀初頭までの西洋絵画・彫刻作品の購入を進め、常設展示している。なかでも西洋のオールド・マスター(18世紀以前の画家)たちの作品を見ることができる美術館として、日本有数の存在である。「西美(せいび)」の略称で呼ばれることもある。
本館
本館は、前述のとおりル・コルビュジエの基本設計をもとに建てられ、1959年に開館したものである。緑色の外壁は、近付いてみると、緑色の小石を全面に貼り付けたものであることがわかる。ただし、現在の外壁は建設当時のオリジナルではなく、後に改修したものである。建物の平面は正方形で、各辺に7本ずつのコンクリート打ち放しの円柱が立つ。これらの円柱は、2階では壁から離れて立つ独立柱となっている。1階部分は本来はピロティ(高床)構造となっていたものだが、現在ではガラスの外壁が設置され、1階の大部分が室内に取り込まれている。1階中央部分は、屋上の明かり取り窓まで吹き抜けとなったホールで、ル・コルビュジエによって「19世紀ホール」と命名され、現在はロダンの彫刻の展示場となっている。1階から2階へは、彫刻作品を眺めながら上れるように、階段ではなく、傾斜のゆるい斜路が設けられている。
2階は、中央の吹き抜けのホールを囲む回廊状の展示室になっている。これは、ル・コルビュジエの「無限成長建築」というコンセプトに基づくもので、巻貝が成長するように、将来拡張が必要となった際には外側へ、外側へと建物を継ぎ足していける構造になっている。本館正面に向かって右側にある外階段は、本来出口として設計されたものだが、実際には一度も使用されず、立入禁止となっている。2階展示室は、内側部分の天井高が低くなっている。この低い天井の上は、自然光を取り入れ、明るさを調整するためのスペースとして設けられたものだが、現在は自然光でなく蛍光灯を使用している。また、2階展示室の北・東・南の3箇所には中3階が設けられ、細い階段が設けられている。ここは小型の作品の展示場として設けられたものだが、階段が狭くて危険であるという理由で、一度も使われたことがない。
本館の世界遺産への登録
フランス政府は、世界遺産登録の前提となる暫定リストに、フランス国内にあるル・コルビュジエの作品・計13件を「ル・コルビュジエの建築と都市計画」(L’œuvre architecturale et urbaine de Le Corbusier)として登載していた。
この「ル・コルビュジエの建築と都市計画」の中に、ドイツやスイスなどにあるル・コルビュジエの作品と同様に、フランス政府が本館を加えて、ユネスコに推薦することを検討していることが、2007年7月28日に報道された。9月14日には、日本政府がフランス政府に協力する形で、ユネスコへ本館を推薦することを決定した。その後10月9日までに、ユネスコの暫定リストに登載され、2008年1月7日に日本政府の「世界遺産条約関係省庁連絡会議」で、世界遺産候補としてユネスコに推薦することが正式に決定された。最終的な推薦書は、2008年1月に、各国の推薦書を一括してフランス政府が提出した。
2009年(平成21年)6月27日に世界遺産委員会による審査が行われた結果、「情報照会」と評価され、登録は見送られた。2011年2月にフランス政府から追加情報を含む改訂推薦書がユネスコに提出されたが、同年5月28日にユネスコの諮問機関国際記念物遺跡会議(イコモス)による評価の結果、世界遺産への登録にふさわしくなく再推薦も不可とする「不記載」の勧告が行われた。しかし、同年6月に行われた第35回世界遺産委員会ではイコモスの評価よりも上位の、推薦書の根本的な改定などが求められるものの再推薦が認められる「記載延期」の評価を受け、その後、国際協議などの再推薦へ向けた活動が続けられた。
これまで、アントニ・ガウディの作品群のように、一人の建築家の建造物を一括してユネスコに申請した事例はあるが、世界7カ国に散在する計23件の建造物を、一括して申請するのは史上初となった。なお、世界遺産には、登録国と所在地が一致していないものがいくつかあるが、日本国内にある文化遺産を外国政府が推薦したのも史上初である。また、通常(日本では)遺産候補は地元自治体からの推薦を受けて、その推薦を文化審議会で審議するが、今回はフランス政府からの協力要請のため省略された。なお、本館は2007年12月21日、日本の重要文化財の指定を受けた。これは従来「築50年以上のものが対象」とされてきた、建造物の重要文化財指定の目安を超えた初のケースであり(築48年の時点での指定)、世界遺産登録のためには当該物件が所在国の法律によって保護されていることが前提であるため、急遽重要文化財に指定されたものである。
イコモスは2016年5月17日に、国立西洋美術館を含む7か国17資産で構成される「ル・コルビュジエの建築作品-近代建築運動への顕著な貢献-」を世界文化遺産に登録するよう勧告し、7月17日に第40回世界遺産委員会において正式に登録された。
主な収蔵作品